「出版社が創るデジタルによる学びの形」株式会社ポプラ社

株式会社ポプラ社
こどもの学びグループ 開発ユニット デジタルコンテンツチーム
井口 真帆 様 堀 創志郎 様

ゲームを子どもの興味関心の入り口に

-今回共同開発させていただいた、【昆虫クエストfor dキッズ】(以下 昆虫クエスト)について教えてください

井口様:昆虫クエストは、当社が出版する「ポプラディア大図鑑WONDA 昆虫」をベースに、1,600種類以上の昆虫データを収録した図鑑と、主人公になりきって幻の昆虫を探す冒険に出るというRPG風のゲーム要素を組み合わせた、デジタルならではの“遊べる図鑑”です。ゲームはすごろくとカードバトルの2段構成になっていて、日本全国をすごろくで冒険しながら、バトルや昆虫採集でカードを集めて強くなっていくことでストーリーを進めていきます。すごろくでは「草地」や「水辺」など実際の生息地に則したフィールドに昆虫が潜んでいたり、昆虫クイズに挑戦したりと、楽しみながら昆虫の知識も身につく仕組みになっています。

 

-“遊べる図鑑”というコンセプトはどのようにして生まれたのでしょうか

井口様:dキッズに図鑑コンテンツを掲載することが決まり、弊社で持っていた昆虫図鑑のデジタルデータを提供するところまでが元々の構想でした。ただ、人気キャラクターコンテンツがひしめくdキッズで、シンプルなデジタル図鑑が果たして使ってもらえるのかというところから、ゲーム化の話が持ち上がりました。
子どもたちの興味を引き出す方法を考えるなかで、自分の幼少期を思い返すと、昆虫と触れ合う時の醍醐味ってやっぱり「採集」だと思ったんですよね。虫取り網を持って捕まえる時の採集欲をいかにデジタル上で刺激し、楽しめるものにしていくかという観点から、冒険やカード収集などの遊べる要素を盛り込んでいきました。
ネオスさんにはこの企画段階から入っていただいたのですが、カードゲームにしてはどうかという弊社の案から、さらにすごろくの要素を膨らませて、RPG風の冒険ストーリーに仕立てるというのはさすがだなぁと思いました。私達だけでは絶対出てこない発想でしたし、0から1が生み出されていく過程が印象に残っています。

-ゲームによる遊びの要素を通じて、昆虫と触れ合う時のワクワク感をデジタルでも再現したわけですね

井口様:とはいえ実際に昆虫がいるのは画面の外の世界なので、子ども達の目線をどうすれば外にも向けられるか、という視点も大事にしました。ゲームが興味を引き出すための入り口だとすれば、そこから本物の昆虫と触れ合ってもらうためには「どこに生息しているのか」を知ってもらうことが最も重要なのではないかと。そこで、すごろくのマスと実際の生息地を連動させるなどの工夫を取り入れ、遊んでいるうちに「どの昆虫がどんな場所に生息しているか」が自然と頭に入るつくりにしました。例えば川へ遊びに行った時に「水辺ってことは、トンボがいるかもしれない」とふと頭に浮かんだりして…そんなふうに、昆虫クエストをきっかけに外の世界でも昆虫を意識するようになってくれたらいいなと思っています。

-ゲームに出てくる昆虫カードに描かれたオリジナルイラストにも、御社のこだわりが反映されていますよね

井口様:図鑑の写真をそのままカードにするよりも、子ども達に昆虫の魅力がわかり易く伝わるようなイラストにした方が良いと思い、イラストレーターによる描き下ろしイラストを採用しました。図鑑が元になっているので、翅の枚数や脚の形といった正確性は重視しながらも、やっぱりイラストならではのカッコよさを出したくて…そこのバランスは非常に気を使いました。例えばタガメの目を最初は赤で表現していたんですが、少しデフォルメしすぎだということで深い青に変えたり、「やりすぎず、でもカッコいい」ラインを模索していきました。
他にも、カナブンは特徴的な翅の広げ方を表現したり、蜂は針が良く見える角度にしたりと、昆虫の特徴が伝わる構図にもこだわったんですが、資料写真が標本などの俯瞰で撮られたものばかりなので、イメージのすり合わせに苦労しました。カブトムシとかはまだしも、マイナーな昆虫はカッコいい構図の資料写真なんてなかなか出てこないので…(笑)。そこは監修の先生やイラストレーターさんと相談しながら調整していきました。

「出版社が創る」デジタルコンテンツの安心感

-今回、図鑑のデジタルコンテンツ開発に取り組んでみた所感はいかがですか

井口様:私自身子どもの頃からの愛読書が図鑑で、本としての馴染みが深かったのですが、デジタル化を進めるなかで色んな利点も見えてきました。図鑑って色んな知識が得られる代わりに、情報量が多いほどサイズが大きくて重くなりがちなので、お気に入りの図鑑を持ち歩きたくても実際はハンドブックとかになっちゃうんですよね。でもデジタルであれば小さい端末で無限に情報が入るし、古くなった内容を書き換えることも出来ます。昆虫の鳴き声を聞いたり、見たい部分を拡大したり…本では表現できない部分を補える良さがあると思います。

-先ほどのイラスト化におけるこだわりや正確性のお話ともリンクしますね。子どもの頃に本から得た知識は大人になっても覚えていたりするものですし、そこの信頼はデジタルでもしっかり担保しなくてはいけないという。

堀様:一方で、昔から培われてきた本への信頼性ってやっぱり高いんですよね。そこにデジタルが肩を並べるのは結構大変だなとは思いつつも、親御様含めて世の中のデジタルに対する見方や考え方も変わってきているんだろうなと感じています。そこに、本を提供している「出版社が創った」コンテンツという我々の強みをもって、いかに信頼してもらえるかがポイントになってくるのではないかと。昆虫クエストも含めて、本の信頼性という担保を活かした「安心して使えるデジタルコンテンツ」による学びを提供出来ればと思っています。

堀様:本ってある意味「正しくて当たり前」なものなので、我々としてはその期待にデジタルでも応えていきたいですし、「正しい」ということを前提にしていかないといけないと思っています。実際はデジタルなら間違っていても直せるところが利点でもあるんですが、そこは本と同じように緊張感をもって慎重に進めていくようにしています。
コンテンツの中身についても、本とデジタルのギャップは意識しています。例えば、本の図鑑は情報の一覧性に長けていますが、デジタルは検索性に重きが置かれがちなので、今回の開発時にも一覧性を取り入れたいという要望をお伝えして、図鑑画面はまさに本のようなインターフェイスにしていただいています。

 

-本とデジタル、双方の良さを取り入れ補完し合うことでより良質なコンテンツにしていくことが出来ると思います。制作過程においては何か違いなどは感じましたか?

堀様:圧倒的にデジタルの方が工程が細かいと思います。本と比べて色んな作業が並行して進むので、今回の開発スケジュールの管理もネオスさんにお任せでした。我々は言われた通りの作業を〆切に間に合わせるだけでしたが、きっと大変だったのではないかと…。

-弊社との取り組みについてはいかがでしたか?

井口様:色々なお願いや我儘を言わせていただいたんですけど、全部アイデアや解決法の提案で返してくださってとても頼りになりました。「この昆虫の情報を入れたいんですけど」っていう抽象的なオーダーに、じゃあシナリオのこの部分に入れ込みましょうとか、すごろくではこんな風に見せましょうとか、“学びを遊びに転換する”ノウハウを本当にたくさんお持ちなんだなって。今の子どもたちにとって、面白くて学びになるゲームがどんなものか、自分の感覚では正直自信が無かったので心強かったです。あとこれは個人的な感想ですが、皆さん親切な方ばかりですね。1聞いたら100返してくれるように、なんでも親身になって対応してくださるので、いつもフォローしていただき感謝しています。

堀様:コロナ禍なので打ち合わせもリモートで、対面でのやり取りはほぼありませんでしたが、特に問題もなくスムーズに進めていただいたと思います。
井口様:もしこの状況でなければ、私は一回皆さんと一緒に虫取りに行ってみたかったですけどね!(笑)

-最後に、昆虫クエストを楽しんでいる子どもたちに向けてメッセージをお願いします。

井口様:遊んでくれているだけで、もうブンブン握手したいぐらいありがたい気持ちです。楽しく昆虫に興味を持っていただけたら幸いです。
堀様:そして楽しく遊んだ後には、外へ出て本物の昆虫を探してほしいですね。
井口様:そうですね、ゲームの画面だけでなく外にも目を向けてもらえたらもう言うことないぐらい嬉しいです!

-お忙しいなか、貴重なお話をありがとうございました!

 

昆虫クエストについて

ポプラ社が出版する書籍「ポプラディア大図鑑WONDA 昆虫」を基に、すごろくやカードバトルなどのゲーミフィケーションを取り入れた“遊べる図鑑”アプリです。1,600種以上の昆虫データを収録し、写真、大きさ、生息地域や出現時期などの生態を詳しく知ることが出来る図鑑機能に加えて、すごろくで日本各地を冒険しながら昆虫採集やカードバトル、クイズなどを通じて楽しく昆虫の生態を学ぶことが出来ます。
詳しくはこちら!

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